委任状に公証人の認証が必要か?【日中法文化考】

弁護士は、本人からの依頼を受けて、裁判をする。

架空の依頼であってはならないので、われわれ弁護士は裁判所に「委任状」を提出して仕事をする。「訴訟代理人の権限は、書面で証明しなければならない」(民事訴訟規則23条1項)。

しかし、実は委任状に押される印鑑は、実は実印でなくてもよい。印鑑証明の添付さえ要求されない。
私の経験では、海外にいる外国人が依頼者であったとしても
「この署名は本物ですか?」と言われたことはない。

ところが、中国の弁護士に日本人を当事者とする事件を依頼したところ、
委任状の署名欄に日本の公証人の署名認証をもらってほしいと言われ、
一瞬たじろいだ。

しかしよく考えてみれば、日本の民事訴訟規則23条2項には
「前項の書面が私文書であるときは、裁判所は、公証人その他の認証の権限を有する公務員の認証を受けるべきことを
 訴訟代理人に命ずることができる。」とある。
単に裁判所が、公証人の認証を受けろともいわず、実印+印鑑証明の添付さえ要求しないという運用をしているだけの話である。


偽物の代理人が法廷に来るのでは正しい裁判などできるわけがないから、
本来であれば「訴訟委任状に三文判しかない」というのは、危険極まりない事態ともいえる。しかし、日本では弁護士に対する信頼が(今のところは)厚いから、「弁護士さんが架空の委任状を持ってくるわけがない」と思われているのだろう。

日本では、弁護士が金融業者に対して受任通知を出して取引履歴の開示を求める場合でも、
「委任状を出せ」と言われることはめったにない。
日本の法実務は、弁護士に対する性善説の上に成り立っているといえる。

これに対して、中国では、「他人を信用してはならない」というのが原則であり、
そのため、公証人の認証もない委任状なんて論外だ、ということなのだろう。

もっとも、弁護士が代理人として作る訴状などの書面にも、
依頼者本人がサインし、公証人の認証をもらってほしい言われたのには驚いた。

さすがに中国でも、代理人弁護士が作る書面にまで本人のサインは要求されないのが普通であり、本人のサインは不要との判例もあるそうだ。
しかし、裁判所によっては、未だに本人のサインを要求するところもあり、
本人のサインがあるほうが無難、だという。

これも、弁護士に対する性善説が通用するかどうかの違いであろうか?

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